アレクサCMで英語リスニング強化(その7)

このサイトを一緒に作っている柴やん、Hiroshiと、最近、英語勉強会みたいなことをやっている。僕、nobu(TOEIC900保持者)が一応先生。このページはその一環。僕がニューヨークのESLコースで教わったリスニングのコツを、Echo/アレクサのCMを教材にして教えるよ。本来は仲間内のものなんだけど、どうせなら皆んなとシェアしたい。

これまでの回は、短いフレーズに的を絞って聴き取りのコツを解説して来たけど、今回は、全体的な意味の聴き取りにチャレンジしてみよう。

教材にするのは、アメリカで「面白い」と評判のアレクサCM。2018年のスーバーボウルの時に流れたもの。AmazonがやってるCMなのに、アレクサを完全にパロってるんだ。今回は最初から順を追って解説するよ。面白さを一緒に味わおう。

アレクサの声が出なくなった

上のビデオがそのCM。長さは全部で1分30秒。ちょっと長いから区切ってやっていこう。まずは最初の一区切り、00:00〜00:18まで。ここでは、人工知能のアレクサが(風邪をひくかなんかして)声が出なくなってしまうという事件が起こる。

最初は、女の人が朝、ハミガキしているシーン。まず聴こえるのはアレクサの声だよ。

In Austin, it’s 60 degrees with a chan(ce)….(アレクサ、咳き込む。その後無言に)

Alexa? (女の人)

Austinは場所の名前、オースティン市。degreesは気温を示す「度」のこと。(60度といってもアメリカは華氏だから、摂氏16度くらいかな)アレクサが、女の人に今日の天気を教えてやっているんだね。でも、途中で声が出なくなってしまう。

アレクサが声を失った、というんでマスコミは大騒ぎ。ニュースキャスターはこう言っているよ。

Amazon’s Alexa lost her voice this morning, causing…. (ニュースキャスター)

Amazon本社では社員たちが大慌てで対策を立てる。

Alexa lost her voice? How’s that even possible? (Amazonの社長)

They have the replacements ready, you just say the word. (女性部長)

And you’re sure this is gonna work? (社長)

(女性部長、すごーく変な顔して)Yeah.

Amazonの社長が「アレクサの声が出なくなったって? そんなことがどうしてあり得るんだ?(How’s that even possible?)」と言ってるけど、その通りだね。人工知能アレクサにはあり得ないことが起こってしまい、みんな驚いている。

でも、女性部長はすでに対策を立てているみたいなんだ。”They have the replacement ready”.と言ってる。They は、具体的には分かんないけど、部下の技術者チームか何かを指してるんだろうね。「The replacement(代替)」が何かは、ここでは謎のまま。だから聞き流しちゃって構わないよ。(後でわかってくる)

彼女のセリフ You just say the word の “the word” とは、この場面では、「進めていいよ、実行していいよ」という社長の承認の言葉のこと。つまり、「Goと言ってくれれば早速取りかかります」みたいな意味になる。

で、社長は、the replacement の意味はよく分かんないんだけど、部長を信じて「それで上手く行くんだな?(are you sure this is gonna work?)」と確認。

すると部長は、すご〜く変な顔をして「イエス(Yeah)」と言っているね。何か含みがあるんだね。彼女の顔を見た社長も「???」という表情。この謎は、後で全部解けるよ。

ところで、社長役のギョロ目おじさんは、本物のAmazonの社長、ジェフ・ベゾスさんだ。なかなかいい演技だと思う。

アレクサに聞いたのに、人が答えてる

次は00:18-00:30までのシーンをやろう。もう1度見れるように、同じビデオを、00:18あたりから始まるようにセットしておいたよ。(終わりは自動で止まらないから、00:30あたりで手で止めてね。もちろん最後まで見てもいい)


まず映るシーンは、お洒落なキッチン。男の人がアレクサに、グリルドチーズサンドイッチの作り方を尋ねている。

Alexa, show me a recipe for a grilled cheese sandwich. (男の人)

recipe はレシピのことで、「〇〇料理のレシピ」と言うときは「a recipe for 〇〇料理」と、for を使うよ(of じゃない)。例えば a recipe for spaghetti というふうにね。

あと、grillは日本語でいう「グリル(焼く)」のこと。grilled cheese sandwich というと、グリルしたチーズサンドのことで、ホットサンドみたいなものだね。

と、まあ、こんなふうに男の人がアレクサに尋ねると、アレクサじゃなく、なぜか別の場所で、別の男の人が答えるんだ。

この謎の人が何と言ってるかというと……

Pathetic! You’re 32 years of age and don’t know how to make a grilled cheese sandwich. It’s name is the recipe . You (beep音).

(僕の日本語訳:救いようがないな! おまえは32才だろう。それでグリルドチーズサンドイッチの作り方を知らないのか。その名前がレシピそのものだろうが。このマヌケ)

この英語、聞き取りにくかった人は多いんじゃないかな。知らなくても全然いいことなんだけど、この人、実はスコットランド出身の有名シェフなんだ。だからスコットランド訛りがある。age をアイジと言い、make をマイクと言い、name をナイムと言っている。スタンダードな英語じゃないから、聞き取れなくてもがっかりする必要はないよ。

アレクサに頼りすぎるユーザーの男の人が、徹底的に言われているのが痛快だね。

ハジけたラッパーもアレクサの代役に

次は00:30-00:40までのシーンだよ。まず勉強する学生が出てきて、彼の質問に、アレクサじゃなく、ちょっと頭のハジけた女の人が答えてる。下のビデオはその最初、00:30あたりから始まるようにセットしてあるから、見たい人は見てね。

まずは、学生が部屋で勉強しているシーン。

Alexa, how far (is) Mars? (学生)

と、火星までの距離を尋ねているよ。ここは、耳のいい人なら「How far ン Mars?」と聞こえるはず。 文字で書くと、一応 How far is Mars? となるけど、実際のところ「is」は発音していない。でもね、is が入って当然の場所だから、ネイティブの人たちは、「ン」を脳内で is に変換して聞いているんだ。

さて次の場面。この質問に、アレクサじゃなく、なぜか能天気なお姉さんが答えてる。

How far is Mars? Well, how am I supposed to do? I’d have a vid(eo) . This guy want to go to Mars. No way, ha ha. It’s no even Alexa did there. (頭のハジけたお姉さん)

白状すると、僕にはお姉さんが何て言ってるかほとんど聞き取れない。上に書き出した英文は、YouTubeの自動生成字幕をほとんど写したものなんだ。ゴメン。

聞き取れなかったのには理由があって、このお姉さん、英文法を無視して喋ってる。実はこの人、有名な女性ラッパーのCardi Bなんだ。ラッパーの人たちは、よくこういうエキセントリックな英語を使う。それに、火星までの距離なんてどーだっていいんだろうね、質問を無視して、質問した学生を小馬鹿にさえしているよ。下にあるのは、僕が想像力を逞しくして訳した日本語だ。

How far is Mars? Well, how am I supposed to do? I’d have a vid(eo) . This guy want to go to Mars. No way, ha ha. It’s no even Alexa did there.

「火星までの距離だって? えー、私にどうしろって言うの? ビデオなら持ってるけど。この人火星に行きたいんだってさー。あり得ない、アハハ。アレクサだって行ったことないのに」

1つだけ僕に説明できるのは、how am I supposed to do? の部分。 I am supposed to do〜 は、日本語に直訳すると「私は〜するように想定されている」みたいな小難しいことになるけど、英語では「私は〜しなきゃいけないことになっている」という意味合いで、気軽に使うフレーズ。ラッパーのお姉さんが使ってもおかしくない。

例えば、「私は宿題をやらなきゃいけないことになっている」という時は、 I am supposed to do my homework となる。誰がsupposeしているか、というと、学校とか社会とか世の中とか、漠然としたものだね。同じことを I should do〜 とか I have to do〜 と言ってもいいけど、あんまりやる気がないときは、am supposed to do〜 が適している。学校や社会がやるように決めてるから、一応やるか……といった感じかな。

ところで、このあたりまでビデオを見てくると、Amazonの女性部長が最初に言ってた「the replacement(代替)」の意味が薄っすらと分かってくるんじゃないかな。人間に代役を勤めさせる、ということなんだね。これから後も、ヘッドセットをつけてアレクサの代わりをする人たちが、同じパターンで出てくるよ。

ホームパーティーがセクシーになっちゃう

続いて00:40-00:53までのシーンをやろう。ご家庭にセクシーが入って来ちゃうという、ユーモラスなシーンだ。下のビデオはその辺りから始まるようにセットしてある。

最初の場面はホームパーティーが始まるところ。ワインを持って来た男の人が、アレクサに命令してる。

Alexa, set the mood.

「アレクサ、ムードを設定して」という事なんだけど、Echo/アレクサを全然知らない人は意味が分かんないかもしれない。説明するとね、アレクサは部屋の照明を調節することができる。この男の人は、アレクサに、そうやって部屋のムード(雰囲気)を作るように命令してるんだ。

でも、それに応じたのは妙に色っぽい女の人。ムードの意味を、自分好みに解釈してしまうんだね。

Now setting the mood. You’re in the bush, and you’re just so dirty, and it’s so sweaty, because it’s hot in that bush…

(今、ムードをセッティングするわ。あなたは繁みの中にいる。そしてあなたはとても汚れていて、汗もかいている。なぜなら、その繁みの中は暑く……)

ここで面白いのは、セリフの内容じゃなく、まず、女の人の思わせぶりな声色だね。それに、英語のスラングを勉強している人には分かると思うけど、セリフの中の「bush(繁み)」には、アソコの毛(の繁み)、という意味があるし、「dirty(汚い)」には性的にだらしないというような意味もある。つまり、このセリフは、声色も内容もセックスを暗示しているわけなんだ。で、ホームパーティーの客たちは困ってしまう。

それで、家の主人は(アレクサが壊れたと思って)、アレクサを再起動(=reboot/リ・ブート)しようとする。再起動は英語で reboot と言うんだけど、この人、慌てたもんだから言い間違えちゃう。

Alexa, re-bush, re…reboot!

エッチな「bush」が頭から離れなかったんだろうね。

ラッパーにカントリーミュージックをリクエストしたら……

さて次は、00:53〜1:10まで。アレクサには音楽を選曲する能力があって、「カントリーミュージックをかけて」と言うと、曲名を指定しなくても適当な曲をかけてくれる。でもね、このCMではアレクサの代役を人間がやっているから、ちょっと狂っちゃうんだ。(下のビデオはそシーンから始まるようにセットしてある)

最初は、初老のおじさんがくつろいでいる場面。アレクサに音楽をかけるように命じる。もごもご喋ってるからちょっと聴き取りづらかったかもしれないね。

Alexa, play some country music. (初老の男性)

でも、かかったのは、 Cardi B のラップなんだ。おじさんの保守的な雰囲気と、過激なラップ曲との落差がおかしいね。歌詞については後で説明するよ。

で、このおじさんは不満で、もう一度命令する。

No, no, Alexa, country music.

すると、かかるのはやっぱり Cardi B のラップ。なぜかというと、アレクサの代役を務めているのが Cardi B 本人(さっきのお姉さん)なんだ。このことは、分かんなきゃ分かんないでどーってことないよ。アメリカ人だって、Cardi B の顔も曲も、知らない人の方が多いくらいだからね。

さて、このラップ曲だけど、Cardi bの「Bodak Yellow(ボーダック·イエロー)」という曲で、ビデオで聴こえているのは次の部分。

“I don’t dance now. I make money moves…”

“I be in and out them banks so much…..”

訳が知りたい人はネットで調べてね。僕にはまるでわからない。ただ、この曲は、ストリップのダンサーが大金持ちになったことを自慢している、という、ちょっとエゲツない曲らしいんだ。それを知っていると、カントリーミュージックとのギャップを、ますます笑えるんだろうね。

最後はサイコホラー風味

次は1:10〜最後までをやるよ。Echo/アレクサには通話機能があって、「Alexa, call 誰々」と命令すると、電話をかけるみたいに「誰々」さんちのEchoを呼び出して、通話できるようにしてくれるんだ。このシーンの化粧する女の人は、それをやってる。(下のビデオはそこから始まるようにしてある)

まず、化粧しながらアレクサに命令する女の人。

Alexa, call Brandon. (化粧する女の人)

Brandon は人(男性)の名前。ブランドン。人名っていうのは、いきなり出てくると何だかわかんないよね。ネイティブはたくさんの名前を知ってるから分かるけど、僕らノンネイティブは、未知の単語に聴こえてしまう。でも大丈夫だよ。たくさんリスニングすれば、すぐに「これは名前だ」っていう勘が働くようになるから。

話を戻して次のシーンに行こう。

次は、アレクサの代役が応答する。これはどこが可笑しいかというと、言葉遣いが紳士的すぎる点なんだ。

I’m afraid Brandon is a little tied up. But do let me know if there’s anything I can help you with.(老人)

(孔雀に餌をやる老人)Jessica?

(驚く女の人)

(老人、孔雀に向かって)….Good boy.

ちょっと学校英語の復習をしておこう。I’m afraid というフレーズは、後に of〜 と続いた場合は「〜が怖い」という意味になるけど、I’m afraid that 主+動〜 と、that節が続いた場合は「(that節の中のことを)残念に思う」とか、「残念ながら/遺憾ながら(that節の中)だと思う」という意味になるよ。

上の老人のセリフ “I’m afraid Brandon is a little tied up”. は後者だね。afraidのすぐ後に主+動〜と続いているから、that節のthatが省略された形だと分かる。

で、この言い方なんだけど、日常会話ではあまり使われない丁寧で堅苦しい言い方なんだ。どのくらい堅苦しいかというと、ホテルの予約がいっぱいでお客様を断らなきゃいけないフロントマンが “I’m afraid (that) we are fully booked” と言ったりする。上司が部下をクビにする時なんかも、 I’m afraid we have to let you go と、やたらフォーマルな言い方をするよ。

その後に続く be tied up は、文字通りの意味は「縛り上げられている」ということだけど、「用事に縛られて手が離せない」状態を表すこともある。

こんなことを分かった上で、老人の最初のフレーズを訳すと、こんな感じかな……

I’m afraid Brandon is a little tied up.(遺憾ながらブランドン君は少々手が塞がっておる)

さて、次のフレーズ、But do let me know if there’s anything I can help you with. も、これまた堅苦しい。どこが、というと、do let me know という言い方。

相手に何かをやらせるとき、please をつけると丁寧な表現になるけど、もっと丁寧な言い方を知ってるかな? (これは学校ではまず教えないし、知らなくても英検に合格できる)それは、動詞の前に “do”を付けることなんだ。僕はESLの先生から初めてこれを教わって驚いた。

例えば、座りなさい、と命令するときは、

Sit down.

これを丁寧に言うときは、

Please sit down.

さらに丁寧に言うときは、

Do sit down.

になる。Do sit down は最上級の丁寧さ。これ以上丁寧な言い方はない(Please do sit down とは言わない)。Do sit down なんて、まるで強く命令してるみたいだよね? でもこれが、Please以上に丁寧な言い方だ、とネイティブの先生は言ってた。現代ではほとんど使われないけど。

ビデオの老人は、この do とか、let me know とかを使って、やたらと回りくどく、紳士的に喋ってる。普通に言うなら tell me if there is something I can help you with なんだけど、わざわざ、

But, do let me know if there’s anything I can help you with.

と言ってるんだ。

こんなふうに馬鹿丁寧に、紳士的過ぎる応対をされた女の人はギョッとしているね。おまけに、この老人、どこから情報を仕入れたか分からないけど、女の人の名前を知っていて、”Jessica? (ジェシカ?)” と呼びかけている。ここに、ちょっとしたホラー風味が出ているんだ。

実はこの老人、アンソニー・ホプキンスという有名な俳優。理知的だけど頭が狂った殺人鬼、という役柄でよく知られている。このビデオでも、そのセンで演じているというわけ。

そして最後のシーンだよ。アレクサのロゴが出て来て、ナレーションが流れる。

Thanks guys, but I’ll take it from here. (アレクサの声)

このフレーズ、言葉は全部聴き取れても、意味がよく分からなかった人もいるんじゃないかな。(少なくとも僕はそうだった)guys とは誰のことか、I’ll take it from here の「I」が誰なのか、「take」とは具体的にどうすることなのか、「it」は何を指すか、「here」とは何処のことか、全部曖昧だからね。

でも、これがアレクサの声だと気づけば、謎は解ける。声が出るようになったアレクサが、最後のナレーションをやっている、という筋書きなんだね、きっと。

“Thanks guys” は、代役を務めてくれた人たち(guys)にアレクサが言っているお礼。代役の中には女性もいるけど、guys と言って構わない。辞書じゃあ「guy=男の人」かも知れないけど、最近の人たちは男女区別なく、ひっくるめて guys と言っちゃうからね。

I’ll take it from here の「I」はアレクサ。take it の「it」は、具体的にどうということじゃなく、これまでのハチャメチャな状況全部を指している。それを、アレクサは、ここから先(=from here)引き受ける(=take)と宣言しているわけだね。これで世の中平和になって、一件落着。

[連載目次]

アレクサCMで英語リスニング強化(その1

アレクサCMで英語リスニング強化(その2)

アレクサCMで英語リスニング強化(その3)

アレクサCMで英語リスニング強化(その4)

アレクサCMで英語リスニング強化(その5)

アレクサCMで英語リスニング強化(その6)

アレクサCMで英語リスニング強化(その7)

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僕がTOEIC 900超えたのは、オーディブルで英語本をたくさん聴いたから