落ち込んだ祖母の気持ちが明るくなったーアマゾンEcho 使い方いろいろ(第9回)

Echo/アレクサに、決まった使い方なんてない。みんな自分の都合に合わせて使っている。僕がアメリカで見聞きしたり、ユーザーフォーラムで読んだ実例を、読み物風に紹介しようと思う。今回はその9回目、高齢の祖母にEchoをプレゼントしたHさんの報告。フォーラムでのやり取りをまとめた。

全26回『アマゾンEcho 使い方いろいろ』連載目次→

Hさんの祖母は視力がほとんどなくなっている。さらに、転倒して足を骨折してしまったため、リハビリ施設に入っている。ベッドから動けないので気が滅入り、すっかり元気を無くしてしまったという。

心配したHさんは、ふと、祖母がフランク・シナトラの大ファンだったことを思い出したそうだ。シナトラといえば、1900年代中盤の大スター。お祖母さんも若い頃に熱を上げたんだろうね。高齢になっても、家で暮らしていた時は、シナトラの曲ばかり聴いていたという。

それでHさんは、祖母が施設でもシナトラを聴けるようにしてあげようと思った。そうすれば、滅入った気持ちが少しでも明るくなるんじゃないか、と思ったわけだ。

普通に考えれば、これは難しいことじゃない。施設の部屋にCDプレーヤーを1台持って行けばいいだけの話。ところが、だ。祖母の場合、目がほとんど見えていない。家に居た時も、CDをかけるのはHさんがやってあげていたし、施設で、祖母が一人でCDをセットしたり、操作したりするのは無理なことだ。

で、Hさんは、Echoを買って祖母にプレゼントした。Echoなら、声でリクエストするだけで、シナトラのどんな曲もかけてくれる。アルバムの曲を順にかけてもくれるし、有名な曲ばかりをランダムにかけてくれたりもする。

施設の部屋にEchoを置いてから、好きな時に、好きなシナトラを聴けるようになり、「祖母はとても喜んでいる」とHさんは書く。僕も学生の頃、見知らぬ土地のアパートに引っ越して心細い思いをした時、慣れ親しんだ曲に癒された経験がある。だから、お祖母さんの喜ぶ気持ちはよく分かる。

(※注 Hさんの祖母の施設には、幸いにもWiFiが完備されていた。Echoを使うにはWiFiが必須なので、どの施設でも使えるとは限らない。あと、上のように音楽を聴くには、Echoを買うのとは別に、音楽配信サービスを契約する必要がある。Hさんが契約したのは、Echoと相性がいいAmazonミュージックだった)

こんなふうに、HさんがEchoをプレゼントした目的は音楽だったわけだけど、他のことでもEchoは祖母に役立っている。例えば、音声時計として。アレクサに「今何時?」と訊くと、言ってくれる。普通の人にとって、こんな単純なことは役立たないだろうけど、目が悪く、時計表示がほとんど見えないお祖母さんには重宝するのだ。

また、Hさんの祖母には変わった性癖があって、その日の天気が分からないと、なぜか不安になるそうだ。家に居た時は、Hさんが外を見て、ほぼ寝たきりの祖母に教えていた。今はアレクサが代わりになり、祖母が尋ねる度に教えている。

こうした日常的なことだけでなく、もっと重大なことにもEchoは役立っている。どんなことかというと、人間に必要な、自尊心とか、自信とかに関係あることだ。

「祖母は、スタッフの介護なしにはトイレにも行けない自分を、情けなく思っている」とHさんは書く。しかも、そんな無力な祖母は、家とは勝手の違う施設のベッドで、愛犬を抱くこともできずに、ひとりぼっちで寝ているのだ。こんなことから、夜中によく不安発作(パニック)を起こすのだそう。

それを何とかするために、Hさんは施設のスタッフと相談し、アレクサに備わっているプログラム(スキル)の1つを有効化した。それは「不安を抑える呼吸法」のプログラムで、祖母がリクエストした時、いつでも、アレクサが呼吸法をステップごとに指導してくれるというものだ。

(※注 アレクサには有効化しないと使えないスキルがたくさんあり、「不安を抑える呼吸法」もその1つ。有効化するには、アマゾンのサイトのスキルページかアレクサアプリ内で「有効にする」ボタンを押す。日本では、瞑想やリラックスなどのスキルがあるが、どれも遊びのようなもの。Hさんが使ったのと同じものは見つからない)

今、Hさんの祖母は、パニックを起こしそうになるとアレクサに声をかけ、このプログラムを実行させている。効果はあったらしく、スタッフを呼べない夜中に不安発作に襲われても、祖母は、「アレクサがあれば大丈夫」と思えているそうだ。

Echoのおかげで、Hさんの祖母は大好きなシナトラを聴けるようになり、知りたいことを気軽に尋ねられるようになり、不安発作を怖がらずにすむようになった。そして、「消えていた笑顔が戻った」とHさんはいう。

全26回『アマゾンEcho 使い方いろいろ』連載目次→