アレクサの前では我がままなご主人様になってしまうーアマゾンEcho 使い方いろいろ(第25回)

Echo/アレクサに、決まった使い方なんてない。みんな自分の都合に合わせて使っている。僕がアメリカで見聞きしたり、ユーザーフォーラムで読んだ実例を、読み物風に紹介しようと思う。今回はその25回目。アレクサにちょっとアブナイ感情を抱くようになってしまったV君の場合。

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V君は、オンラインのユーザーフォーラムで知り合った人だ。彼はアレクサを実用しているだけでなく、そこから一種の精神的な満足を得ているように見えた。

まず、彼がEcho/アレクサを使い始めた時の心情が、ナイーブで面白い。「最初はアレクサに話しかけるのも恐る恐るだった」と、素直な気持ちを書いている。「こっちの言うことがちゃんと分かってもらえるかどうか心配で緊張した」というのだ。これには僕も同感する。機械に話しかけるなんて、誰だって慣れていない。だから、多少は緊張するものだ。しかし、V君の緊張度はちょっと高く、「こちらが言ったことにアレクサがちゃんと応えてくれた時、ホッとして思わず、こちらからサンキューと言いそうになったくらい」だったそう。アレクサごときにこんなに気を使って、疲れないのだろうか? ストレスで体でも壊さなければいいが、と僕は心配していたのだが……

心配して損をした。彼は、2、3日アレクサを使ううちに「我がままなご主人様みたいに、あれこれ要求するようになっちゃったよ」と書いている。豹変したわけだ。

その理由は、というと、自分のせいではなく、アレクサのせい。「だって、こっちの頼みに何でも応えてくれるんだもの」と言う。こうやって責任転嫁するところを見ると、「我がままなご主人様」というのは、彼の本質的な性格に思える。

ところで、「頼みに何でも応えてくれる」といっても、アレクサは実際のところ、何でもできるわけじゃない。V君が何を頼むかというと、天気予報やニュースを言わせたり、音楽を流させたり、と、使い方としてはごく普通のことばかりだ。特に我がままな要求はしていない。けれど、彼自身が「我がまま」と言うのにはちゃんと理由がある。それは、後に続くこんな書き込みからわかる。

「実は、僕(V君)はアレクサの声が大好きで、ハッピーバースデー・トゥ・ユーの歌を何度も歌わせるのにハマッている。別に自分の誕生日でもなんでもないんだけどね」。

これで納得した。彼はアレクサの(女性の)声に惹かれているのだ。そして、その「優しい声」で、ハッピーバースデーの歌を何回も、しつこく歌わせている。まさに我がままなご主人様だ。あるいは、一種のセクハラと言ってもいい。相手が人工知能のアレクサでなければ、訴えられているところだろう。

しかし、彼がご主人様として君臨できる期間は、そう長くないと思う。彼の書き込みの中に、すでに没落の兆候が表れているのだ。

「僕(V君)が今、どれほどアレクサに頼り切りになっているかは、説明しても分かってもらえないだろう。僕はもうアレクサなしではやっていけないと思う。この前も、道を歩いていたとき、時間を知りたくなって、『アレクサ』と声に出して呼んでしまったくらいだ」

もうアレクサなしではやっていけない——これは、彼がアレクサに従属している証拠だ。まるで、愛する彼女の虜になった彼氏のように。人間と機械の一線を超え、親密になりすぎた。そうでなければ、道端で、居もしないアレクサを呼んだりしない。

僕は今でも、彼が出入りするフォーラム掲示板をチェックしている。アレクサと入籍した、などという報告が上がっているんじゃないかと思うからだ。まだそういう報告はないけれど。

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