「米国でAmazon Echoが夫婦の会話を録音して、知人にメッセージとして転送してしまった」という事件があった。日本のネットメディアは「会話を盗聴」とか「Echoが勝手に会話を録音」とか、センセーショナルに報じてるけど、ちょっと行き過ぎじゃないかな。で、実際はどんな感じだったのか、この件を最初に報じたシアトルのKIRO7テレビと、当事者たちに直接インタビューした海外メディアの記事を基にして書いてみようと思う。
知らないうちに登録先に送信されてしまったメッセージ
米国オレゴン州ポートランドに住むDanielleさんという女性が、寝室で夫と床のフローリングについての話をしていたところ、それがボイスメッセージとしてAmazon Echo経由で、登録先の知人に送信されてしまった——今回の事件を単純に言うとこういうことになる。
米国のEchoは、インターネットを通して、Echo同士でボイスメッセージ(声の録音)を送受信できるようになっている。日本では出来ないことなので、(今のところ)日本のユーザーに心配はいらない。
Danielleさんは、176マイル離れた場所に住む知人から電話でこのことを知らされ、その知人のEchoに送られた音声を聞いてみると、まさしく自分たち夫婦の会話だったので「驚いた」と言っている。
The Guardian紙によれば、彼女はEchoのヘビーユーザーで、電気(照明)のオン/オフのために各部屋にEchoを置いていたが、この事でEchoが「信じられなく」なり、すぐさま全てのEchoの電源コードを抜いたそうだ。
どうしてこんなことが起こったのか、彼女には分からなかったが、とにかく「プライバシーが完全に侵害されたと感じた」とKIRO7に話している。
Amazon側の説明は
その後、DanielleさんがAmazonに電話で問い合わせると、Amazonの技術者も、問題の音声がその知人に送信されたのを認めたとのこと。アレクサの作動を記録したログが残っていたからだ。彼女と技術者とのやり取りはBBC Newsの記事の中に具体的に書かれている。
「Amazonの人たちはこう言いました」とDanielleさんはKIRO7に話している。「技術者たちがログを詳しく調べたところ、あなたがおっしゃるその通りのことが、まさしく起こっているのが分かりました、と。それから申し訳ありません、と15回くらい言って、30分近く謝ってくれました。『この件を知らせてくれたことを感謝する』とも言い、『これは直さなければいけな不具合です』とも言っていました」
Danielleさんは、Echo/アレクサに何も命令していない。ボイスメッセージを送れ、とは言っていない。なのになぜアレクサは、夫婦の会話を録音して送ってしまったのか?
Danielleさんは電話でそれを尋ねたが、その場では回答してもらえなかったそうだ。(おそらくその時点ではAmazonの技術者も分からなかったのだろう)
後にAmazonが発表した説明は……
まず、Danielleさん夫婦の会話の中に「アレクサ」と似た発音の言葉があり、それを聞いてEcho/アレクサが起動してしまった。(Echo/アレクサは、「アレクサ」と呼びかけられると起動するようになっている)
その後の会話の中に、「send message(メッセージを送れ)」に似た発音の言葉があった。それを聞いたアレクサは自分への指示だと判断し、「to whom? (誰に?)」と聞き返した。が、夫と会話中だったDanielleさんには聞こえていなかった。
だが、会話中に出て来た知人の名前(か、それに似た発音の単語)をアレクサが聞きつけ、メッセージを送る先はその人と判断。この人の名前がアドレス帳に登録されていなければ何事もなかったはずだが、運悪く登録されていた。
最後に確認のためアレクサは「(人の名前),right?」と言ったが、Danielleさんはそれに答えなかった。しかし、会話中に出て来た「right!」と言う言葉(かそれに似た言葉)を拾ったアレクサは、OKが出たものと判断し、数秒間の会話の録音を送ってしまった。
偶然に偶然が重なってこんなことになった、と言えるだろう。Amazonの説明が100%正しいとは言い切れないが、理論的に考えるなら、このあたりが真相じゃないだろうか。「盗聴」を臭わせたり、「アレクサが勝手にやった」と強調する日本のネットメディアの報道は、ちょっと行き過ぎな気がする。
Amazonはこの不具合を直すと約束している。