AlexaやGoogle HomeみたいなAIが、人の暮らしをどう変えて行くのか——僕はそんなことに興味があって、暇な時、ネットの中をよくぶらついている。そうしたら先日、AIが出てくるショートショートばかりを集めた本に出くわしたので読んでみた。今回のブログはその本の紹介と感想。
『人工知能の見る夢は AIショートショート集』(文春文庫)
その本は、文春文庫の『人工知能の見る夢は AIショートショート集』。23人の作家(若木未生、忍澤勉、宮内悠介、森深紅、渡邊利道、森岡浩之、図子慧、矢崎存美、江坂遊、田中啓文、林譲治、山口優、井上雅彦、橋元淳一郎、堀晃、山之口洋、高井信、新井素子、高野史緒、三島浩司、神坂一、かんべむさし、森下一仁、樺山三英)のショートショート作品が一冊にまとめられている。
どの作品にも、私たちが日常的に関わるAIが登場し、生身の人間がそれに翻弄されたり、人生に大切な何かを教えられたり、幸せになったり、不幸になったりする様が描かれている。
で、こういった作品がメインになっているのだが、それだけじゃない。
ショートショート数編ごとの間に、大学でマジでAIを研究・開発している先生たちの解説、というのか、コメントというのか、そんなような文章が挟み込まれている。そこには「小説の中に書かれていることが今のAIで可能なのか」、とか、「それを可能にするには、現場の研究者がどのような課題を乗り越えなければならないか」ということが書かれていて、結構興味深い。
(ちなみに先生方の名前は、大澤博隆、稲葉通将、加藤真平、小林亮太、伊藤毅志、原田悦子、赤坂亮太、佐藤理史、久木田水生、松山諒平/敬称略)
ショートショートの面白さはいまひとつだが
収録されている作品は、過去、人工知能学会の学会誌『人工知能』に掲載されたもの。文芸誌ではなく、学会誌に掲載されたという点はちょっと変わっている。
掲載作品の数は多かったらしく、その中から、学会の研究者たちがピックアップしたものが『人工知能の見る夢は』の一冊になった。
文春文庫の編集者ではなく、科学者がピックアップしたせいなのか、どの作品も面白さは普通程度、と僕個人的には思う。
面白いな、と思ったものに、新井素子さんの「お片づけロボット」があったけど、これもEcho/アレクサやGoogle Homeを使って多少のフラストレーションを感じたことのある人なら、「あるある」とは思っても、「すごく面白い」とまでは思わないだろう。
(主人公は片付けが苦手な女性で、AI搭載のお片づけロボットに部屋の片付けを命ずるが、AIは指示の言葉をそのまま実行するので、色々やっかいなことになる。例えば、大きな紙類は大抵大事なものなので取っておくことにして「15cm四方より小さい紙はゴミ箱へ」と命ずると、確定申告に必要なレシートが全部捨てられてしまったり、「広告チラシはゴミ箱へ」と命ずると、電話での仕事の打ち合わせで手近なチラシに書きつけた超重要なメモが捨てられてしまったり、と。それで最後に、「お片づけロボットに命令する前に、まず自分が勉強しなければいけないから、そんなに楽じゃない」と主人公は悟る)
人工知能が書いたショートショートが1編
本の最後に収められた1編は人間の作家の作品じゃなく、AIが書いた作品。タイトルは「人狼知能能力測定テスト」で、AIのペンネームは大上幽作、全文がpdfで公開されている。名古屋大学大学院工学研究科佐藤・松崎研究室が進める「気まぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」から生まれたものだ。
僕が一番面白かったのはこれ。面白いと言っても、ストーリが面白いとか、表現が面白いとかいうんじゃなく、AIの最前線から生み出された成果の現物を読んでいる、という面白さ。
ストーリーのベースになっているのは、複数のAI同士で人狼ゲームをプレイした時の対戦ログだ。それを元に作家AIがプロットを生成し、さらにそれを文章化したとのこと。つまり、作品創作の大部分をAIがやったことになるけど、対戦ログのどの部分を選ぶかということや、どんなテーマに沿ってプロットを作るかという指示は人間(研究者)が与えているので、100%AIが創作したとは言えない。
実は、この作品の噂は以前から聞いていた。第4回星新一賞に応募されたもので(星新一賞は人間以外の作品も受け付ける)、どうやら一次審査を通過したらしい。
過去のブログ「アップした写真からEcho/Alexaにストーリーを作らせた」にも書いたけど、英語版アレクサには、写真から短いストーリーを作る機能がすでにある。
そのうち、「アレクサ、小説を作って」と言えば、ユーザーを主人公にしたオーダーメイドの小説なんかを作ってくれるようになるかもしれない。
紹介した本『人工知能の見る夢は AIショートショート集』はAmazonでも売っている。また、AIによる小説創作の技術面に興味がある人には、「気まぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」の さんが書いた本『コンピュータが小説を書く日 ――AI作家に「賞」は取れるか』をお勧めしたいと思う。